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第2回 ゴルトベルク変奏曲の全景

2019/08/31

 

1)全体の構成

 

 ゴルトベルク変奏曲は、アリアで始まり、その後30の変奏曲が続きます。そして最後にもう一度、冒頭のアリアが演奏されます。合計30曲。

 

 3曲ずつのまとまりをもって作曲されていますが、ど真ん中の、第16変奏に序曲の表示があるので前後半の2つに分けることも可能です。私にとっては、3曲ずつより5曲ずつのまとまりで捉えた方が演奏しやすいです。

 

 このアリアは32小節で、その後の各変奏曲も同じく32小節(第3、第9、第16変奏は違って見えますが、数え方により32となります)でできています。

 全体を見てみましょう。

 

 

アリア

第1変奏

第2変奏

第3変奏 1度カノン

 

第4変奏

第5変奏

第6変奏 2度カノン

 

第7変奏

第8変奏

第9変奏 3度カノン

 

第10変奏

第11変奏

第12変奏 4度カノン

 

第13変奏

第14変奏

第15変奏 5度カノン ト短調

 

第16変奏 序曲

第17変奏

第18変奏 6度カノン

 

第19変奏

第20変奏

第21変奏 7度カノン ト短調

 

第22変奏

第23変奏

第24変奏 8度カノン

 

第25変奏 ト短調

第26変奏

第27変奏 9度カノン

 

第28変奏

第29変奏

第30変奏 クォドリベット

アリア

 

 

 まず第16変奏、全体の折り返し地点が序曲になっています。後半戦スタートと言ってもよいですが、その前の第15変奏がキリストと十字架を象徴するような曲と考えると、キリストの復活を告げる序曲という解釈もあり得ます。

 

 3の倍数の番号の変奏がカノンになっています。そしてカノンも1度、2度と音程が広がって行くようになっています。カノンについてはのちほど説明します。

 

 この曲はアリアと27の変奏がト長調で書かれていて、残りの3つが短調で書かれています(第15変奏、第21変奏、第25変奏)。30の変奏曲中の短調の総数も3(曲)です。

 

 

2)何を変奏?

 

 私は、変奏は「変装」ではないかと思っています。要するに服の着せ替えです。一体のマネキンをもとに服の着せ替えを楽しむ趣向。

 

 通常、変奏というと右手のメロディラインがマネキンにあたる部分になり、それが装飾的に変化していくと思われがちですが、ゴルトベルク変奏曲の場合はアリアの中で左手が担当する低音がマネキンに相当するのです。これを低音主題と呼びましょう。

 

 低音主題は各小節に1つずつ現れ、アリアは32小節なので32の低音の流れができあがります。(譜例1 赤丸を付けた音符が低音主題)

 

 

 ちなみにこの低音主題が、他の変奏においてどのように使われているかを見てみましょう。(譜例2 第1変奏前半部分)

 

 

 

 第1変奏では、低音主題が明確に出ていますが、30の変奏の中には、低音主題が明確に出ていないものもあります。

 

 32の音の連なりはマネキンの身長に相当するから、各変奏の小節数は変わらない。身長は変えられないのです。しかし右手は自由に変奏できるので、色々な着せ替えが可能です。つまり様々な体型に対応できる、だから女装も男装も違和感がないのです。

 

 イタリアの美しいソプラノ歌手(第13変奏)になったかと思うと、十字架を背負って行く痛々しいキリストの姿(第15変奏)にもなり、フランスの華やかな宮廷の人々(第16変奏)にもなれるし、天の嘆き(第25変奏)にも変装できる!? それを可能にするにはマネキンに「様々な変装に耐え得る体型」が必要なわけですが、32の低音にバッハはその可能性を感じたに違いないと思います!

 

 

3)ゴルトベルク変奏曲のルーツは?

 

 長大な曲の背後には、ヒントや下敷きに相当するものがあることがあります。ずばり、バッハはヘンデル(1685~1759)のシャコンヌ・ト長調HMV435を下敷きにしたと私は思います。ヘンデルは8つの低音の流れをもとに21の変奏曲(シャコンヌ)を作曲しました。8つの低音(ソファミレシドレソ)がゴルトベルクの低音と全く同じなのです(ちなみにこの8つの低音の流れはヘンデル、バッハ以外にもあります)。そしてヘンデルのシャコンヌは1733年出版、ゴルトベルク変奏曲は1741年出版です。

 

 当時ロンドン在住のヘンデルは、ロンドンとアムステルダムで同曲を出版しましたが、アムステルダムの出版社にはライプツィヒ・聖トーマス教会のバッハからの注文記録が残っているそうです(『ヨハン・セバスティアン・バッハ』C・ヴォルフ著、秋元里予訳、春秋社P.585)。

 

 バッハはヘンデルのシャコンヌを知ったあとにゴルトベルクを書いたのだと私は思います。

 

 これだけなら最初の低音8つがたまたま同じということもあるかもしれませんが、ヘンデルの第5変奏のあとにゴルトベルクの第5変奏を比べてみましょう。

 

(譜例 ヘンデル・シャコンヌ)

 

(譜例 バッハ·ゴルトベルク変奏曲)

 

 ほとんど同じ曲に見えませんか? ゴルトベルク変奏曲をアリアから弾いて、第4変奏のあとにヘンデルのシャコンヌの第5変奏を弾いても、あまり違和感がないのではないでしょうか。またヘンデルの第19変奏のあとにゴルトベルクの第26変奏を聴くと、高音部のラインも同じです!

 

 作曲家は曲のルーツを明かさないことが多いですが、私はバッハがヘンデルのシャコンヌを下敷きにして、それを拡大し、長編の変奏曲に仕立てていったのではないかと思っています。

 

髙橋 望

 

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