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パウゼ(Pause)その1 CD録音秘話

2020/01/07

 

 ゴルトベルク変奏曲をライヴ録音するべきだ!というありがたい提案が2013年末にあり、2015年1月に東京の四谷区民ホールで行うゴルトベルク変奏曲によるリサイタルをライヴ収録することになりました。ホールにはベーゼンドルファーのコンサート用グランドの275型があります

 

 ベーゼンドルファーは、ウィーンの楽器で、ヨーロッパの空気を感じさせるカラっと乾いたような音色が特徴です。バッハの幾重にもなる旋律を弾き分けるにも、私はこの音色に助けられています。

 

 収録にあたっては慎重を期して、リサイタルの1週間前にエンジニアの櫻井卓さん、ベーゼンドルファーを知り尽くした調律師の水島浩喜さんと下見をしました。収録は当日のみなので、下見をして当日のスケジュールを組みました。数日前には、水島さんが所属する会社B-tech Japanによるホールの保守点検作業が元々予定されていたので、楽器も万全の状態になりました。

 

 当日は、15時からの演奏会に合わせ、11時に調律、マイクのセッティングなどすべてを完了しました。

 

 ここで私が立てた作戦をお話しましょう。 演奏会本番は、極度の緊張状態の中で収録していくことになります。なにかアクシデントがあった場合どうするか?ということが頭の中にあると演奏に集中できなくなる恐れがあります。リハーサルで全曲収録しておいて、万一の際、差し替えできるという安心感があった方がよいと思いました。それは、本番での思い切りの良さにも繋がります。また、客席での雑音等がある場合のバックアップにもなります。

 

 とはいえ、リハーサルで繰り返しを含めて80分も全力で演奏してしまっては体力や集中力を消耗しかねず、なにより本番での新鮮さが失われてしまうので、繰り返しをしない形で通奏し、収録してもらいました。

 

(写真)四谷区民センターでのリサイタルの様子

 

 

 リハーサル時の通奏があったお陰で本番は会心の演奏ができました。最後まで集中が途切れることなく弾き切ることができました。

 

 聴いてくださった方々も素晴らしく、最後のアリアのあとは30秒近く静寂が続き、そのあと長い拍手がありました。この静寂~拍手も演奏会の醍醐味の一つだと思い、CDにもそのまま収録しました。

 

 マイクを立てる位置や高さの加減で、収録される音は大きく印象が変わってきます。エンジニアの櫻井さんは、私の音色や特徴を熟知してくれているので、客席で聴いたイメージそのままの音を再現してくださいました。そして後日、櫻井さんのスタジオですべてのテイクを何度もチェックしました。会場のノイズが数ヶ所わずかにありましたが、8オクターブあるピアノの音域の中で、バッハの曲は5オクターブほどしか使いません。ノイズはその音域外だったので、ピアノの音質に影響なく取り除くことができました。また、各変奏の間合いは本番のときのままでは80分を超え、1枚のCDに収まりきらなくなるので、79分前後になるように曲間は次変奏への間合いを考えた上で、多少切り取りました。

 

 プログラムノートには、ドレスデンでの師ペーター・レーゼルに文章を寄せてもらいました。このCDは、レーゼル先生も気に入ってくださり師のインタビューでもたびたび紹介してくれました。

 

 こうして出来上がったCDは、2015年10月号の「レコード芸術」の器楽曲の月評で、準特選盤の評価を頂きました。

 

 2015年以降も、ゴルトベルク変奏曲のリサイタルの際は必ず収録をしています。これまでと違う味わいのゴルトベルクが録れた時には、またCDとして評価を世に問うかもしれません。

 

 

 

【収録情報】

● J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988

髙橋 望(ピアノ/ベーゼンドルファー275)

レーベル:Accustika   PPCA620

録音時期:2015年1月31日

録音場所:東京都、四谷区民センター

録音方式:ステレオ(デジタル/ライヴ)

 

 

髙橋 望

 

 

 

▶︎第7回 極私的ノート(その2~第15変奏から第30変奏)

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